2018年6月6日水曜日

クライアントのいない世界での議論を早く離れてみては?

講義でもゼミでも、法学部で議論していると、自分が裁判官みたいに、さも中立的に結論を出すことが多いですね。債務不履行ありなし、損害賠償責任ありなし、違法性ありなしなどなど。でも、そんな議論はあまり使えないんです。裁判官になるならまだしも、普通のビジネスの場面では、中立的に法令を扱うことや判断することは極めて稀だからです。

昔、ある大学院の講義で「先生は誰の味方なんですか?」と真顔で聞かれたことがあります。僕は、「誰の味方でもないというか、誰の味方にでもなるよ(笑)」と答えました。「雇われし銃」というと語弊があるけれど、僕はクライアントの最善の利益のために議論するだけです。法律問題に絶対的な答えは、たぶんないので。

中立を装っていても、中立になり得ないという問題もあります。僕は、青学に雇われていて、青学にとって不利益なことは言いにくいですから(笑)。私学助成金の話も、あまりしたくないし、非常勤先との関係で文科省に関連する話もあまりしたくない(笑)。

ゼミとかで何かの活動をする時も、僕なら常に考えてしまうんですよ。誰のためにやっているのか。自分のためにヒトを巻き込んでいるだけなのか、それとも誰かのためにやっているのか、についてです。誰かのためにやっているなら、その人がすべての判断基準を握っていることになる。その人の利益だけを考えられるかどうか、という問題ですね。僕は、自分のための話については、約因ベースで議論したいし(Win=Winになるような形でディールとして)、そうでなければ物事として前に進めたくくないですね。

就活になれば、急にクライアントのことを考えさせられます。法学部にはぜんぜんない発想が要求されるということです。中立的にいいとか、悪いとかいっていても始まらない世界です。あなたがいいとか悪いとかは、あまり関係なくなります。ある会社や組織に採用されたいとして、その会社や組織のクライアントは誰か、何を提供できるのか。少なくとも、その会社や組織の利益が何で、どうやってその利益が生み出されるのかを知り、自分の強みを選考までに磨き上げる。そのくらいの準備はしてもいいですよね。本気で行きたければ、ですけど。

僕ら法学部の人間の武器は、ルールと事実を扱い、自分や自分が雇われている組織に有利な議論を展開したり、説得力のある文章を書くことくらい。数字にも強ければなお良いけど、それは経済学部や経営学部に劣るかもしれない。歴史、文化、心理学についての知識を持っていれば、もっともっと有利な交渉やコミニュケ―ションができるかもしれないけど、それは文学部、教育学部、総合文化政策学部に劣るかもしれない。国際政治も知っていれば国際交渉や政治を巻き込む場合は有利だけど、それは国際政治経済学部に負けるかもしれない。それでも、どんな組織でも会社でも、必ずルールを扱います。事実やデータを扱うんです。それを使って利益をもたらすために、法学部生ができることは多いはずです。他学部に必ずしも負けるとも劣らないはず。

もうそろそろ、クライアントのいない世界で議論するのはやめません?そうしたら、法学はもっともっと面白くなります。それは、医療と法の分野に限られません。

法学部生であることの意味を考えてみませんか?法曹になるにしても、クライアントのいる世界の発想は大事ですよ。