授業開始が遅れて、皆が対応に追われていますけど、法的にはとても興味深いことが起きています。医療と法のゼミにとっては格好の材料がたくさんある。政府や都道府県知事が行う様々な政策の根拠、探してみたことありますか?侵害留保理説を採用すれば、法律がなくてもできることはもちろんある。たくさんある。でも、実際のところどこまでの行為が、法令の根拠なしに行われていて、どこから法令の根拠ありで行われているのか、調べてみたことありますか?
自粛要請は、あくまでお願いであり任意に従われるものだから、「国民の自由」や「財産」を侵害する行為でない。形式的にはそのとおり。でも、さまざまな経済活動は制限され、お金を稼げず、事実上苦しい生活を強いられる人々は多い。それ以外の選択肢が事実上ないのに、自発的に、任意に従ったと言われてしまう。その上、自粛要請で不十分なら、政府としては罰則付きの法律を制定するのみ。繰り返しゲームで考えたら、最初から自粛要請をある程度受け入れておくのが最も賢い、でしょうね。罰則付きでも、罰則なしでも、国民がやることは結局いっしょなのだから。こうやって考えてみると、行政法の最も基本的な考え方「法律による行政の原理」は簡単に形骸化してしまいます。とくに、事前に対応のための立法が行われていない場合に今回のような緊急事態が発生すると。
僕が政府の人間なら、公益のためにぎりぎりのことはなんでもやりたい。侵害留保説では何ら問題ないのだから。人命を救うために、一定の制約は公共の福祉に適う。だから、賠償責任もないだろうと。実際、今のところ結果は悪くないわけだし。
でも、一般市民の立場なら、法律って意味ないんだなって痛感する。法律を通しても通さなくても、経済は事実上制限され、多くの人が苦しんでいる。結果、多数の自殺者が生まれても、侵害留保説では全く問題なく、特措法上の緊急事態宣言後の話はなおさら違法性はない、果たしてそう言えるのか。適切なプロセスで判断され、その判断が合理的なものかどうか、それが究極的には問題になりうる。
法律を勉強していても、今起きている事象を分析し、改善する方法を発見し、他人に説明できないなら、あまり意味はないかなって、思いません?世間みたいに、ただただ批判することはできる。誰にでも批判を向けることができる。でも、政府がなぜ、ああいう方法で何かしらの政策を行うのか。僕らはその根拠を、ちゃんと調べてみたい。法学部じゃないなら、法的な観点を無視して批判すればいいけど、僕らは法学部なのだから。