法学部に入ったらまず、本をたくさん読んでみませんか?本を読むのは、知識を得るためにも良いのですけど、ここでは、世界には自分の知らない事項がたくさんあるんだ、という事実を直視するために読んでほしいと思っています。世の中知らないことばかり、それは法律を勉強して使う上で、とても大事な事実だと思います。
人生がいかに長くなっても、経験できないことや身近に感じられないことはたくさんあります。人生が無限で何回もやり直せるなら、自分で何事も経験していればよいかもしれません。でも、実際は違いますね。ヒトはいつか必ず死にます。寿命を全うしてもできなくても、限りある時間の中で自分が経験したり、身近に感じられることも有限です。数多くのバイトでもしていれば別ですが、大学生の間にすべての分野を知り尽くすことは事実上無理、と言わざるを得ません。
法律という世界には、お察しのとおり、限界がほとんどないです。僕らの経験の限界など関係ないです。実際、理論上はどのような分野でも、法律などの規制対象にすることができます(日本では国会が法律で定めるか、地方公共団体が条例を定めれば、ですが)。もちろん、政治的に規制した苦でもできない分野もありますね。ただし、法規制は自分の専門が会社法だから他はしらなくていいやとか、民法は好きだけど刑法嫌いだからいいやとかそういうレベルではなくて、自分の好き嫌いにかかわらず、現実になる場合があります。ぜんぜん身近でもなく、経験もしてない世界でも関係ありません。
知らない世界の話を法的に考えるのは難しいですが、知らない世界を狭くしてくれるのが読書だと思います。いや、逆にわからないことが多くなったりもしますね。知れば知るほどわからないことがでてくるので。もちろん、聞いたり、調べたりすれば、知らない世界についても法的に考えられないわけではないのはそのとおりですが、最初からある世界にとっかかりがあれば、リサーチはより早く、正確に、しかも網羅的になるはずです。たとえば、トラウマ(心的外傷)について全く知識がないヒトが、トラウマで損害を被ったという場合の損害賠償について調べようにも、なかなか大変ですよね。誤ったイメージでリサーチをするのも大問題です。みすず書房にはジュディス・L・ハーマン『心的外傷と回復』という有名な本がありますけど、あの本を読んでいると、トラウマの理解は他の大学生とは比べものにならないはずです。
法律を勉強していくと、「ああ、それ知ってる」っていうことが多くなりますが、本当にそうなのでしょうか?勉強すればするほど、わからないことだらけです。実務では日々、新しいことが考えられていて、その実務の世界には、僕らが接したことのない分野がたくさん含まれています。
知ってること、正解があることで満足するのはもうやめて、大学生らしく、わからないことを考えてみませんか?しかも、法律のことです。そのための第一歩は、やはり読書にあると思います。