面白いですね。心理学の基本的な知識がたくさん出てきます。ああやって、犯罪捜査のためだけに使うのは心苦しいですけど(笑)。
心理学は一般教養でも学べますけど、その奥は深い。法律も奥は深いけど、心理学の本質は本当に深いと思っています。僕は専門家じゃないから、すべてはわからない。それでも、知ったかはしないように、それだけは忘れないようにしています。奥が深いのは、対象が「ヒトの心」だから。法律は、ヒトの心も扱うけど、むしろ具体的に表現されている「利益」が大事。ヒトの心よりは利益の方が見えやすい。ときどき、今の世の中では十分に理解されておらず、認識されてもいないのに守られるべき利益があったりするけど、それはまた別の場面で話したいです。
法律にも通じるのは、先入観を忘れる大事さかな。ヒトの心はわからない。行動心理学で、一般的には何を考えているのかを想像することはできる。でもそれは、目の前のヒトの考えそのものではない。それが一番大事。
法律も同じ。前も書いたけど、似た事案には似たルール、同じような処理が基本。僕らは通説や基本判例を覚えて、それを普段から使える訓練を受ける(実際にはぜんぜん使えないんだけど(笑))。先入観というか、似た事案には似た解決法、そういう考え方にずっぽりハマるのが学部の4年間。
でも、それでは足りない。判例通説でなんでもかんでも解決できると思うのは、行動心理学で目の前のヒトの心を理解した気になっている素人と同じ。たいていの場面は当たっているかもしれないけど、それは常に当たることを意味しない。法律でも同じで、判例通説で処理してよい事案かどうか、それとも例外が適用される場面か、その部分を丁寧に扱いたいんです。最善の利益を実現するために。
似た事案は、過去の事案と完全に同じではなく、目の前のヒトは一般的な人々でもない。事案には必ず個別具体的な背景があり、発生した時刻もその後も違う。ヒトなんて、同じ人はぜんぜんいない。この重要な事実を、法学部にいる間に僕らは忘れてしまうんです。なぜなんだろう。
その答えは、僕らが目の前の事案やヒトではなく、理論や教科書の知識を大事にしすぎるから。実際の場面では使えない理論や教科書の知識から少し離れて、具体的な事案やヒトを見てみてください。
授業で扱う事案はしょせん過去の話。どれだけ調べてもすべての事実関係を正確に知ることはできない。証拠や証人を介して真実に近づくことはできるかもしれないし、判例集や教科書には法令等を適用するのに必要十分な事実の要約が書かれている。でも、それは事実のすべてではない。知らない事実が、事案を決定的に変えてしまうかもしれない可能性、考えたことありますか?
話をサイレント・ヴォイスに戻しましょう。心理学を学ぶと、先入観から離れようって思えます。目の前のヒトの心が分からないように、事案も過去の類似事案とは違いますよ。それを忘れないで勉強しましょう。