2020年6月16日火曜日

ゼミでは就活対策はしてない?

そうですね。別に、就活対策をしているわけではないですが、僕のゼミはほかのゼミと違うので、本質的に就活に近い発想や考え方を要求していると思います。

教室や大学での勉強が「実験室」だとすれば、就活は「現場」。答えはない。マニュアルもない。みん就を読んで事前勉強してもあんまり意味はない(笑)。ここが、決定的に違うところです。

僕のゼミでは、過去の判例や学説を勉強して終わるわけではないんです。その先を考える。とりわけ、僕のゼミではまだ起きたばかりの事案を扱ったりします。まだほとんど学説や判例もないような世界も扱います。ある意味で怖いです。どうやって解くのか、皆、分からないんですもの。でも、それは実験室から外に出てみるってことなんですよ。現場で調べて考えてみるってこと。自分なりに、グループでもがいてみるってことです。

いいとか悪いとか、賛成とか反対とか、違法とか適法とか、損害賠償責任ありとかなしとか、そんなので終わっているのが「実験室」。

「現場」では、いいならもっと良くする方法を、悪いなら実現可能性を考慮しつつよりよくする方法を、賛成ならなぜか(+本当に全面賛成できるのか、改善点はないのか)、違法なら適法にする方法、損害賠償責任ありなら責任を免れるにはどうするか、それが結局、社会にどんな影響を及ぼすのか、そこまで考えて端的にプレゼンできないと、"in vain"(無駄)。

現場には一週間の猶予なんて絶対にない。目の前で処理するセンスと能力がすべて。しかも、考えて即座に話せないと、相手には伝わらないし。メモを作る暇はぜんぜんないので。

他のゼミのことはわからないですけど、僕は、医療と法という題材を使って、毎回、こういう作業を学生とやっています。就活のためにではなく、その先のために。だから、就活対策はしていませんし、学生のこともあまり心配していません。真面目にゼミに出ている学生は、いつもやっていることなので(笑)。就活、頑張ってください。




2020年6月7日日曜日

サイレント・ヴォイスー先入観から離れてみる

面白いですね。心理学の基本的な知識がたくさん出てきます。ああやって、犯罪捜査のためだけに使うのは心苦しいですけど(笑)。

心理学は一般教養でも学べますけど、その奥は深い。法律も奥は深いけど、心理学の本質は本当に深いと思っています。僕は専門家じゃないから、すべてはわからない。それでも、知ったかはしないように、それだけは忘れないようにしています。奥が深いのは、対象が「ヒトの心」だから。法律は、ヒトの心も扱うけど、むしろ具体的に表現されている「利益」が大事。ヒトの心よりは利益の方が見えやすい。ときどき、今の世の中では十分に理解されておらず、認識されてもいないのに守られるべき利益があったりするけど、それはまた別の場面で話したいです。

法律にも通じるのは、先入観を忘れる大事さかな。ヒトの心はわからない。行動心理学で、一般的には何を考えているのかを想像することはできる。でもそれは、目の前のヒトの考えそのものではない。それが一番大事。

法律も同じ。前も書いたけど、似た事案には似たルール、同じような処理が基本。僕らは通説や基本判例を覚えて、それを普段から使える訓練を受ける(実際にはぜんぜん使えないんだけど(笑))。先入観というか、似た事案には似た解決法、そういう考え方にずっぽりハマるのが学部の4年間。

でも、それでは足りない。判例通説でなんでもかんでも解決できると思うのは、行動心理学で目の前のヒトの心を理解した気になっている素人と同じ。たいていの場面は当たっているかもしれないけど、それは常に当たることを意味しない。法律でも同じで、判例通説で処理してよい事案かどうか、それとも例外が適用される場面か、その部分を丁寧に扱いたいんです。最善の利益を実現するために。

似た事案は、過去の事案と完全に同じではなく、目の前のヒトは一般的な人々でもない。事案には必ず個別具体的な背景があり、発生した時刻もその後も違う。ヒトなんて、同じ人はぜんぜんいない。この重要な事実を、法学部にいる間に僕らは忘れてしまうんです。なぜなんだろう。

その答えは、僕らが目の前の事案やヒトではなく、理論や教科書の知識を大事にしすぎるから。実際の場面では使えない理論や教科書の知識から少し離れて、具体的な事案やヒトを見てみてください。

授業で扱う事案はしょせん過去の話。どれだけ調べてもすべての事実関係を正確に知ることはできない。証拠や証人を介して真実に近づくことはできるかもしれないし、判例集や教科書には法令等を適用するのに必要十分な事実の要約が書かれている。でも、それは事実のすべてではない。知らない事実が、事案を決定的に変えてしまうかもしれない可能性、考えたことありますか?

話をサイレント・ヴォイスに戻しましょう。心理学を学ぶと、先入観から離れようって思えます。目の前のヒトの心が分からないように、事案も過去の類似事案とは違いますよ。それを忘れないで勉強しましょう。